柄糸の巻き方

ここでご紹介する巻き方は一般的な柄糸の巻き方です。


最初の準備

柄糸を巻く時の柄巻台

柄巻師は、柄糸を巻く際、柄前を固定する台を所持しています。この台を柄巻き箪笥などと呼んでます。
この箪笥は柄巻師独自の物となっているようです。しかし、柄巻台は何でも構いません。柄を固定して、柄糸が巻ければ良いのです。
例えば、一番最初に用いたのが、こんな状態で固定していました。

柄巻台が無くても、手作業で巻く事も可能です。しかし、柄巻台があった方が柄糸を巻くには便利です。
当店で作った台は下の写真です。ミニ箪笥を購入して、引き出しに穴をあけて作った台です。

柄の準備

柄糸を外して巻き直す場合、鮫皮が汚れている場合があります。その時は、汚れなどを取り除きます。
貼ってある鮫皮の端の粒が柄下地よりはみ出している場合、鑢などで研磨して、柄木地に合わせます。

次に、柄木地に柄糸を巻く幅を決める線を引きます(菱取り)。今回は16mmで設定しています。
菱取りで最後まで菱の幅が取れるように微調整して決めます。下記写真では14菱となってます。
(柄糸の種類や幅によっては〇〇菱半(13.5菱)となる場合もあります。この場合の留めは表裏反対となります。)

菱紙と柄糸

柄糸を巻く時に、糸の内(下側)に紙を入れます。この紙を菱紙又は込め紙と呼んでいます。
菱紙は通常和紙を使います。しかし、今回は便利で直ぐに手に入る紙「新聞紙」を使います。
新聞紙はインクで印刷してある為、虫を寄せにくいとなり紙柄下地が虫に喰われ難いという利点があります。
その他の紙として障子紙も良いと思います。
紙が準備できましたら、新聞紙を丸めて柔らかくします。その後、10回前後重ね巻きします。
巻く柄糸にもよりますが、高さを1cm位にして重ね巻きをします。



紙の重ね巻きを終えたら、幅15mm位で切り取ります。この切り取り幅は、柄糸の幅、柄糸を巻く時の締め具合によって違いがありますので、
数個作ってから確認すると良いと思います。次に、切り取った紙の両端を折って三角の形にします。
数量は菱取りした数の4倍が最低数になります。

次に準備するのが、柄糸です。当店では、柄糸を柄の全てに巻き付け、柄の長さに2回巻いて柄糸を取っています。
今回は純綿の紺色の柄糸を用います

これで、準備は終わりですが、最初のうちは、柄の棟・刃方に両面テープを貼り付けると巻きやすくなります。

しかし、柄巻きに慣れたら両面テープは使わないようにします。

裏側の柄糸の巻き


巻きの始め

これから、柄糸の巻きを始めますが、柄糸の表裏を確認して下さい。
準備した柄糸で半分の位置を中心にして写真のように、柄の表側の縁金に合わせて置いて下さい。

この時、柄糸の向きを柄の棟側に向かって、糸の左端の織目を上向きにして縁金にセットします。

置いた柄糸の両端を引っ張った状態で裏返しします。
巻きの準備で、菱取りした数が偶数の場合、右側から捻り始め、奇数の場合は左側から始めます。
今回の例では14菱の偶数ですので、上側(右側)から始めます(下糸と呼ぶ)
最初は内側に捻りますが、柄糸の下に三角形の菱紙を置き、上の写真のように包み込むように内側に捻ります

続けて下の写真のように捻ります。

続いて、反対側(写真の下側)にも菱紙を柄糸の内側に置きます。

下側の柄糸は菱紙を包み込むように捻ります。

続けて下の写真のように菱紙を包み込むように捻り巻きします。

巻いてから柄糸を締めます。これで裏側の最初の捻り巻きは終わりです。

表側の柄糸の巻き

裏側の一菱を巻き終えたら表向きにします。

裏側の巻きで、柄糸を上側に捻ってある糸(上糸)を表側では下糸にして、菱紙を置きます。

表側も、先ほどの裏側と同じ要領で下側の糸に菱紙を挟んで、内側に捻ります。

続いて下記写真のように捻ります。

下糸の捻りを終えたら、下記写真のように上側に菱紙を添えます。

上側の片方の糸(上糸)を同じ要領で菱紙を包み込むように捻ります。

続いて捻り菱紙を包み込むように巻いて菱の形を整えます。
その時、巻いた柄糸が菱取りした線に揃うよう調整します。

あとは、全て同じ要領で巻いていき、重ねが交互の上下になるように巻きますが、巻く時は締めながら巻いて下さい。
目貫の位置は五菱目に入れますが、握り具合などで3菱目でも良い。
目貫は向きを確認(トップページの模造刀の知識欄を参照)して、目貫の配置具合を確認します。

目貫の位置を確認してから、通常通り菱紙を置きます。

目貫の上に柄糸を巻く場合、目貫の高さを考慮して紙を追加挿入して巻き具合を調整します。

菱紙を追加して巻き終えた状態。

同じ要領で柄頭位置まで巻き、最後は留めの作業となります。

裏側の留め方

前ページで柄頭まで巻いた状態の柄を裏返して、表で巻いた上糸を、最初に巻きます。その時も菱紙を添えます。

その糸を菱の上側から糸通しを用いて写真のように菱の下側に通します

通した柄糸を下側の写真位締めます

片方の柄糸を写真のように菱の下側を通します。

通した糸を締めますがこの時にも菱紙を込めます。

締めた柄糸を上側の菱の下側に糸通しを使って通す。

通した柄糸をある程度締める。

写真のように丸めるように摘まんで締める。

両方の糸を半分に折り重ねた状態で頭金具のシトドメ穴に通します。

菱などを整えて、裏側の留めは完了です。

表側の留め方

裏側の留めが完成したら、柄表に返します。

シトドメを通した写真の下側の柄糸を菱の下に通します。

柄糸を菱の下側に通した状態

菱の下側を通した柄糸を、写真のように、菱の上側から巻き付けて通します。
巻き付ける時、柄糸を摘まんだ状態で巻き付けます。

巻き付けた柄糸を締めます。

片方(写真で上側)の柄糸を菱の下側に通します。

柄糸を菱の下側に通した状態

通した柄糸を、巻き付けた柄糸の上側に摘まんだ状態で折ります。

続いて、その柄糸を菱の下側を通します。

菱の下側を通した柄糸を締めます。
続けて、菱に巻き付けた柄頭側と柄頭金具を通した柄糸の上に持っていく。

その柄糸を写真のように菱の下側に通します。

菱の下側に通した柄糸を締めた状態。

両方の余分な柄糸をギリギリの箇所で切ります。

最後に糸の見える切り口を、クジリなどで菱の中に埋め込んで切り口が見えないように隠します。
これで、柄糸の巻きは完成です。



会員様専用の別の留め方

最後に

柄糸の巻き方には、数種類の巻き方があります。今回ご紹介した巻き方は、諸捻り巻きと云う巻き方です。 諸とは、下糸も上糸も、同じ要領で巻くと云う意味で、上下の糸を捻って巻いた方法です。 その他の巻き方で、片摘み巻きは、下糸を捻って巻き、上糸を摘まんで巻いた方法です。 柄糸の巻きは、巻きの回数を重ねると徐々に慣れて上手く巻けるようになります。 菱の形状は、クジリなどで整えると綺麗になりますが、柄糸の巻きで、上手くて綺麗に巻いてあるのは、柄糸の留めの状態でわかります。 下の左写真は、裏側の留めの状態です。一般的な留めに見えますが、この留めは居合刀(模造刀)のみで真剣の巻き方ではあり得ません。 もし、真剣でそのような巻き方の留めであれば、模造刀を専門として巻いている人か素人が巻いたものだと思っています。 柄糸の巻き直しを依頼される場合、綿糸で4千円以上する場合、確認として菱の状態や柄糸の表裏の留め整形がしてあるかを確認すると良いと思います。 模造刀の柄糸を巻く職人は、柄糸を支給して頂き、数巻いてナンボと云う職業ですので、専門的なことまで習っていません。 最も酷いのが、あるオークションで見たのですが、綿の柄糸巻きで8千円位、巻きを見ると素人そのものの状態でした。 ※模造刀の糸巻きをしていた職人の話しですが、巻く職人を極めている処もあります。 下の写真で、黒糸巻きと白糸巻きの裏留め状態を確認してください。また菱の整いなども良く見ると判断できます。 このページを見られた方は、巻きの良し悪しの判断が出来るように祈ってます。